洋菓子を作るには、きっちりと材料をはかること。丁寧に調理すること。時間や温度を守ること。それが大切。
けれども、さっくりとしたクッキーやスコーンは、ざっくりざっくりとつくるのがおいしくなる秘訣。
どちらにも共通して重要なのは、食べた人の笑顔が見たいと言う『気持ち』
***
その日も依頼人など影も形もなく、いつも通り暇な燕雀探偵社には、紅茶のかぐわしい香りが良く似合っていた。
開け放した窓から入ってくる風は、ひらりと真っ白いカーテンを翻し。
白い陶磁に描かれているのは小さな薔薇。
添えられたお茶請けは、さっくりとしたスコーン。こってりとしたクロテッドクリームと、闇野青年お手製のイチゴジャム。
なんて優雅なひととき。
「ヤミノ君、なんかこれ、ベリーベリー尽くしだネ?」
定位置に座っていつものように午後のひとときを楽しんでいる屋敷の主が手にしているのは、なんの変哲もないドライ・クランベリーを混ぜたスコーン。
であったが、自他共に認める甘党だがスコーンに関してはどちらかと言えばプレーンタイプが好きなロキとしては一言口にしたい言葉もあったわけで。
「お気に召しませんでしたか? クッキーも用意してありますけど」
いやイイケドネ。
ロキは自分から話を振ったわりにはあっさりとスコーンを口にする。そのまわりをふよふよと飛び交って
『ろきたま おやつ〜〜』
なんてねだっている式神のえっちゃんにもおすそわけしながら。
「そうでした、ロキ様はプレーンタイプがお好きでしたね。うっかりしてました」
うんまぁイイケドネ。
もひとつ気乗りなさげなロキの返答に、闇野は妙にうろたえてしまうがこれ以上なにが言えるだろうかと黙るしかなかった。
「やぁ、クランベリーのスコーンにストロベリージャムって、誰かさん好みだなぁと思っただけ」
そう言えばその誰かさんは、いつぞや、
「闇野さん、クランベリーがさっくり混ざっていておいしいですね。わたし、ベリー系大好きなんですvv」
なんてハートマーク乱れ飛びさせていたっけか。とロキは記憶から掘り返す。
「あ、本当ですね。別にまゆらさんの為に作ったわけではないんですけど、うっかりしてました」
闇野は妙にあっけらかんと笑うが、その顔をロキは半眼で見つめる。
うっかり……うっかりね。昨日のおやつのクッキーはラズベリーのトッピング。その前のケーキにはどっさりのイチゴ。その前は、その前は……と記憶をたどるに、最近はベリー尽くししか見ていない。
……あぁなんか感化されちゃってるんだなぁヤミノ君も。
別段それがイヤな感じでもなかったので、黙って紅茶を口にするのだが……その紅茶までもがストロベリー・フレーバーだったので、ちょっとだけげんなりする。
大堂寺まゆら。まるでインフルエンザ並みの感染力。いつもマイペースなヤミノ君まで振り回してるんだからまったく。この子のことだから『餌付け』なんて考えはちっともあるはずないだろうし。
と思いながら、一番振り回されて一番感化されていて一番『餌付け』に走りそうな本人が言っても説得力ない感想を抱くロキであった。
|