トテモ。
イヤナ。
夢ヲ。
見タ。
透き通った紺青色の空にのぼっているのは、白く細い三日月。
その細い光が照らし出す地上は、雪のましろに包まれて、月の光を幾倍にして輝いている。
しんと静まった清浄な白に、周囲に乱立する常緑樹の緑が映え渡る。
そこは、森の、ほんの少し拓けた場所。
森に暮らす小動物たちも、寝静まった時刻。
その場所で、月の光に包まれた少女がひとり、いた。
パーティを抜け出したのだろうか、薄手の白いワンピースドレスの上にふわふわしたファーで縁取りされたボレロ。
耳には雪の結晶のイヤリング。
小さな足には、淡いピンクのパンプスが。
人の群れにまぎれても目を惹かずにはいられないだろう可憐な装いだった。
けれども、その少女を見つめるロキの心は、雪よりもなお凍えていた。
何故なら、どれだけ記憶の泉を探っても、装った彼女が笑っている顔を一秒も思い出せないから。
彼女がおのれにほんの少しも笑いかけもしてくれなかったなどと思えないのに。
それよりもなによりも、少女――まゆらは、冷たい雪の中にふわりと倒れ伏していた。
彼女が選んで身を飾ったもの以外で彼女を飾っているのは、厚く積もった穢れない白い雪。
投げ出した手の先の爪は、白いネイルを刷いたかのように色がなく。
僅かに傾けた顔は白く、ほのかな色のルージュで染めた唇だけが不自然に強い色。
閉じられたまつげの先には、雪解け水が再び凍りつき。
背を覆った亜麻色の髪は、力なく地面に広がっている。
『こんなにも雪が積もっていては寒いだろう』
ロキは、緩慢な思考でそんなことを考えていた。
いや、こんなにも厚く雪が積もるほどの時間、同じ体勢でいると言うことは。
もう、もしかしたら、彼女は――……
しびれた頭でぼんやりと考えながらも、ロキは動けない。
――どうして。
なにが起きて。
こんなことになっている??
答えを教えてくれる者は、どこにもいなかった。
『死』の気配もないかわりに『生』の気配もない無音に満ちた雪の世界で、ロキだけが呼吸をとめて『生きて』いる――……